ふじまるぽーたる

音楽、自作好き筆者の愉快な日々の記録。

ドキュメンタリー「FAKE」


根っからのペテン師だ、と佐村河内氏をして言う人は多い。
ここで見せる彼と妻の姿がどこまで本当かわからないが、写っている映像は、薄暗い部屋、テーピングしている指、手話、サングラス…
すべて懐かしい佐村河内氏だ。
映画は終始、「耳がほとんど聞こえないのは事実」で、「批判的な報道は全て嘘」、「なぜそんなことをするのか理解できない」といった、佐村河内氏サイドの主張を軸に展開してゆく。
しかし、観た後に残る感慨は、森監督の意図はどうか知らないが、恐ろしいほどの「残酷さ」。
見逃してしまうような何気ない行為や景色を反復して見せるような編集は、映画全体が一見、佐村河内擁護な体なだけに、一筋縄ではいかない様相だ。
「誰にも言わないでください、衝撃のラスト12分間」なんて思わせぶりなキャッチコピー、新垣氏や神山氏といった反・佐村河内サイドをディスるようなテロップ、わざわざ夫婦に「愛してる」「感謝してる」などと言わせる演出…「被写体を騙さなかったことなんてない」という森監督。別に、このような仕掛けに腹が立っているわけでもないし、そういうのもアリかと思うけど…なんかこう、後味が悪い。

もっとゾッとするのは、
森監督に煽られるままに、淡々とカメラの前に立つ夫婦の姿だ。
彼らはもともとエキセントリックだったのだろう。その上に、事件後は外界との接点がますます減り、もはや井の中の蛙夫婦状態だ。そんなふるまいが、ただただ映される。
合間合間にはさまれる「信じている」かどうかの問答。
この時、違う選択をしていれば、それはまた全然ちがうスリリングな展開になったのだろうが、彼らは冷ややかな視線を飲み込むことにするのだ。
すでに論破されたとする設定を真実として生きる彼ら。
そうするしかないけれど、すればするほど広がる違和感。
でももう、止められない。
人には話すな、と釘を刺したラストの12分。
なぜ、わざわざこれをさせたのか。
なぜ、こんな形で切り取ったのか。
ペテン師はだれなのか。
ペテン師よりも残酷なのは?


「FAKE」
http://www.fakemovie.jp